漫画「無能の人」 作者:つげ義春 季刊誌「コミックばく」に昭和60年6月~61年12月に連載されたもの。
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漫画のあらすじ
主人公の助川助三は、描けば芸術作品としてとりあげられる漫画家であったが、売るための漫画を量産できるようなタイプではなく、たまに入る仕事の依頼も断ってしまい、貧乏な日々を送っている。
そして漫画ではなく、石を売ったり、中古カメラの販売をしたりして生計を立てようとする助川に妻のモモ子からは「私怖いわ、あなたの性格って自分で自分をダメなほうへ追い込んでゆくんだもの」となじられる。そんなダメ人間の貧乏生活を描いた、全く夢のない漫画で第1話から第6話で構成されている。
主人公はつげ義春そのものかーと思わせるが、つげ義春本人は石を売ったことは無いとのこと。
第1話 石を売る
多摩川中流で拾った石を売る主人公の助川。
当然売れるわけはない。団地に住んでいる助川には嫁と息子の三助がいるが、2人は新聞配達をしており、どうやらその細々とした収入で生きているようだ。
第2話 無能の人
石の本を見つけた助川。初めて石が美術品並みに売買され、マニアが多いことを知る。
そこで多摩川で石を集め始め、妻とすったもんだのすえに石屋を開店したのだ。
石の情報誌で石のオークションがあることを知った助川は、場所代の1万円を工面して自分の石を出品。さらに送料と、会場ではお弁当代を取られたのだがー
結果はさんざんたるもので1つも売れることは無かった。
第3話 鳥師
近所の和鳥専門店の主人から、謎の鳥師が数々のすばらしい鳥をつれて来て、そしてやがて鳥のように飛び去ったという経験談を聞くー。
鳥師のように飛び去りたいーという衝動にかられるが、その次のページで「父ちゃんむかえにきたよ」と息子の三助がやってきて第3話は終わる。
第4話 採石行
多摩川で採れた石では売れないと、遠方に出かけることにした助川。
この漫画で唯一のウキウキシーン。
しかし、到着した駅の蕎麦屋で飼っていた犬にアキレス腱を噛まれー採れる石は見つからずー宿の食事はナスのおしんこにナスの味噌汁にナスの煮物ー結局寂しい気分になるのだったー。
第5話 カメラを売る
カメラの修理ができる助川。ある日古物商から壊れたカメラを1,000円で購入しなおしてみた。
その後、そのカメラに結構価値があることを知る。壊れたカメラを安価で購入し、修理して転売し始めたら、順調に売れ行きは伸び「いずれはカメラのさくら屋・ヨドバシカメラだ!」と勢いづく。
ーが、店舗も構えていない助川は在庫が尽き、仕入れが困難になり、万事休す。
むなしくカメラ業も終了となる。
第6話 蒸発
助川よりも人生にやる気のない、古本屋の山井と、山井からもらった「井月」という俳句の歌人のはなし。井月は伊那谷という山間のへき地に居つき、狭い谷底をあっちにうろうろ、こっちにウロウロ、一所不在の風来坊、次第にうとまれもてあまされるように。
最後は枯田の中に糞まみれで死んだいった。
蒸発して死んでいった山井ー「井月も山井も大馬鹿ものだよ・・・・」助川がかすみかかる石屋の中でそうつぶやくシーンで漫画は終了する。
漫画の感想
子供のころに父の本棚から見つけたこの漫画。あまりに独特な世界観に、こんな漫画もあるのかとおどろいた。何の夢も希望もない漫画、だけど怖いもの見たさに似た感覚でこの漫画に惹きつけられる。
虚無感がたまらなく地味に面白い。
漫画家:つげ義春について
漫画の巻末には「つげ義春の乞食論」といういたビュー記事が記載されている。写真もあり、つげ義春が調布の深大寺を散歩する姿が写されている。
なかなかの好青年。漫画がリアルなので、実際に石を売っているのか?と聞かれることも多いらしいが、石屋は漫画だけのお話である。
漫画の最終話は「蒸発」であるが、インタビューからつげ義春自身は蒸発に憧れ、実際に一度蒸発したことがあることを語っている。
その時、後にも先にもその時にしか味わったことが無い自由感を味わったという。
つげ義春の漫画と言えば、有名なものに「ねじ式」という作品がある。
こちらの方がえげつない。悪い夢の中にいるような作品で、「無能の人」よりも強烈な世界観が味わえる。興味がある方は是非。
最近では「名作原画とフランス紀行」なんて本も執筆している。
無能の人:映画版について
「無能の人」の映画版は松竹から1991年11月にに公開されている。竹中直人が主人公の助川を演じ、好評を受けていたようである。
松竹作品データベース「無能の人」
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